トスカニーニのDVD映像
念願のトスカニーニのDVDを入手しました。NBC交響楽団の素晴らしい力量がカリスマ指揮者の統率のもと精妙かつ大迫力で迫ってきます。単に歴史的に貴重というのを超えて名演の記録です。
見たのは5巻(1948〜52年(テスタメント)ですが、ドビュッシーの『夜想曲』(なぜか「雲」と「祭」だけ)の精妙、繊細な表現はアメリカのオケとは思えないほど。期待しすぎたロッシーニ『ウィリアム・テル』序曲はモノラル録音に加えてフォルテッシモでの音のバランスが貧弱で期待はずれ(この時代なのでしょうがないです)。そのかわり、ベートーヴェン交響曲第5番『運命』やレスピーギ交響詩『ローマの松』は期待を上回るすばらしい演奏。CDで聴くあの名演がそのまま映像になってるので、「アッピア街道の松」で鳥肌が立ちました。
この2曲では終始トスカニーニの指揮がアップで映っていて、オケのようすをもっと知りたいと思う反面、偉大な指揮者の指揮が完全に記録されていることは指揮を学習する者にとってはすばらしい映像です。
詳しくはhttp://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1420966
バラキレフのピアノ作品全集
先月聴いたパレーがうまかったので、バラキレフの「ピアノ曲全集」(6枚組。1992年録音。ブリリアント盤)を買ってみました。詳しくはhttp://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1067612
彼のピアノ曲と言えば「イスラメイ(東洋的幻想)」という難曲しか知りませんでしたが、6枚におよぶ諸作品を聴いてバラキレフの志向が少しわかってきました。穏やかでショパン的な曲が多く、ワルツ、マズルカ、スケルツォ、夜想曲などのジャンルはまさにショパンの影響でしょう。
ロシアの国民楽派の範疇で、毒っぽさやピアニスティックな刺激がなくてちょっと物足らないところもありましたが、さわやかで穏やかな曲が多くていい感じです。3曲あるピアノソナタのうち変ロ短調のソナタや「グリンカの主題による幻想曲」は聴き応えがありました。 ワルツもいい曲が多いです。
アバドのチャイコフスキー交響曲全集
アバド指揮シカゴSOのチャイコフスキー交響曲全集BOX(CBS。6枚組)を聴いています。
チャイコ全集はそんなに買い集めていないのでマゼール・カラヤンとこのアバドの3種くらいしかなく(協奏曲は鬼のように何種類もあったりして)、それほどあれこれ買うつもりもないのですが、聴いているとやはり引き込まれる魅力に満ちています。このアバド・シカゴ盤は1985〜1992年のデジタル録音でオケもうまく、ロシア的情感も万全ですが、金管の迫力が今ひとつおとなしいかもしれません。それほど個性というかアクもない分、上品な仕上がりで万人向きなのかなあという感じです。他に「テンペスト」「スラブ行進曲」「ロミジュリ」「くるみわり人形組曲」「交響的バラード・地方長官」などが入っているのも嬉しいです。
ロストロポーヴィチBOX
ブリリアント廉価BOX「ロストロポーヴィチ録音集」(1957-1972年録音。10枚組)を聴き終わりました。同じシリーズでオイストラフ・リヒテル・ギレリス・キーシンとありますが、その中で最高の内容です。ロストロのメロディア盤ライブ集ですけど、どれも完成度が高く骨太の美音と技巧を味わえます。
曲もドヴォルザーク(ハイキン指揮)、ハイドン2曲、シューマン・ショスタコーヴィチ1番、サン=サーンス、ラロ、チャイコのロココなどの有名な協奏曲はもちろん、オネゲル、ミヤコフスキー、ティシチェンコ、ヴラソフ、ヴァインベルグ、ソーゲといった近代ロシア人作曲家らの珍しい協奏曲録音は貴重で、まとまったBOXとしても珍しい存在です。
室内楽も、デドゥーヒンのピアノ伴奏によるプロコやベート−ヴェン4番、ブラームス1番などの「チェロ・ソナタ」は迫真の演奏。またハチャトゥリアン本人伴奏の室内楽や、ファリャ「火祭りの踊り」(チェロ版)という珍しく貴重な演奏もあります。

半分くらいが秘曲でこれからも聞きこもうと思ってますが、なかでもブリッジ「チェロ・ソナタ H.125」(デドゥーヒン伴奏)はすばらしい曲でびっくりしました。近代イギリス室内楽は恐るべし!
詳しくはhttp://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1435319
アニー・フィッシャーのベートーヴェン・ソナタ全集
アニー・フィッシャーの録音はフンガロトンというレーヴェルが多く、日本発売がないためか日本ではあまり知られていませんが、知る人ぞ知る巨匠で、数度来日公演もありました。このベートーヴェンソナタ全集(1977〜78年)は輸入盤でも高価で今まで指をくわえて我慢してましたが、やっと中古で安く買うことができました。
それにしてもすばらしい演奏!ベーゼンドルファーの甘い響きに快速なテンポで、バックハウスによく似ていますが、息づかいが巨匠風でアダージョ楽章の精神性は深く、情熱あふれるアレグロ楽章はスケールも大きく、ピアニズムにあふれていながらベートーヴェンの域を逸脱はしないドイツ的な感性であることも聴いていて非常に説得力がありました。またどの曲も慈しむかのような演奏で、全集としての価値が大きいです。今まで聴いたソナタ全集のなかでも指折りの存在なのに、オントモムックの類とか吉井亜彦「名盤鑑定百科」ではこのフィッシャー全集に触れているのは一冊もなく、まったく日本の評論家っていうのは何を聴いているんだと文句言いたいほどです。
EMIの輸入盤4枚組にシューマンのほかに悲愴・月光・ワルトシュタインなどが入っていた録音(1957〜64年)はアーカイブズシリーズで復刻されましたが、それより表現の幅が大きく深くなっている感じです。
シベリウスの交響曲2番
シベリウスも大好きな作曲家で、交響曲以外にも名曲が多いのですが、CD3枚で全集が買えるのでどんどん増えていきます。特に有名な2番は個性的な演奏が集中してますので、コメントをメモしておきます。

(1)カヤヌス・ロンドン響(1930)…作曲者お気に入りの演奏らしく録音は悪くてもイメージがしっかりしていてオーソドックスです。
(2)トスカニーニ・NBC(1940)…唯一のシベリウスで、例によって速めのテンポで、盛り上がりもオケの統率がとれていて迫力たっぷり。特に3楽章は抜群のアンサンブル!ただティンパニの音が堅めなのが不満。
(3)モントゥー・ロンドン(1959)…やや速めのテンポで濃厚な表現もあり、オーソドックスながら聴き応えありました。ただラッパの音が溶け合わず浮いた感じなのが残念。
(4)カラヤン・フィルハーモニア(旧。1960)…これまた濃厚で聴き応えあり、メリハリも聴いていてカラヤンのシベリウスはさすが。
(5)マゼール・VPO(1964)…全集としては印象は薄かったが、2番だけ聴き直すとオケが一番巧くて、しかも金管の響きは理想的(ブルックナー的)ですばらしい演奏。
(6)バルビローリ・ハレ(1966)…マゼールとは逆に全集は好印象なのに、2番はオケが荒い感じで、テンポも速すぎに感じる。
(7)セル・クリーブランド(1970)…大阪万博による来日での伝説的なライブ。直進的でテクニックは鮮やか。やや洗練されすぎの感じもあります。
(8)オーマンディ・フィラデルフィア(1972)…LP以来の愛聴盤でやはりこの演奏をオーソドックスな演奏。管の迫力も十分でやや都会的。
(9)デイヴィス・ボストン(旧。1976)…のびやかで豊麗な響き。これもすばらしい演奏。ブルックナー的で洗練されたシベリウス。
(10)ベルグルンド・ボーンマス(旧。1976)…最初の全集。2番も好演。地味で素朴であるが、誠実で北欧の抒情ただよう表現ですばらしい演奏。
(11)カラヤン・BPO(1980)…旧録音に比べ、より濃厚で表現の幅が大きく、より主観的でオケも上手いですが、1楽章あたりは大人しすぎる感じで個人的には旧録音のほうが好き。
(12)ヤルヴィ・エーテボリ(1983)…金管が荒い感じでテンポも急ぎすぎ。
(13)バーンスタイン・VPO(1986)…VPOを振った1・2・5・7番の1枚。1・2楽章はもっともテンポがゆるやかで懐の深い演奏。洗練されすぎる印象もあり、人によって好き嫌いに分かれそう。
(14)ベルグルンド・ヘルシンキ(旧。1986)…2度目の全集で有名な演奏。本場物として説得力があり、シベリウス独特の味わいに肉薄し、輸入盤BOXは廉価なのでおすすめ。
(15)サラステ・フィンランド(1988)…これも本場物ですが、テンポはやや遅め、全体におだやかな感じですが、スケール感もありオケも万全。
(16)セーゲルスタム・デニッシュ(1992)…シャンドスの廉価盤ながら表現もオケのテクニックも十分で聴き応え有り。
(17)デイビス(新。1992)…新しい全集でどの曲もブルックナー的な豊麗な味わいとオケのうまさは抜群、やや都会的ながら、録音も優秀なので万人向けのすばらしい演奏。
(18)ベルグルンド・ヨーロッパ室内管(新。1996)…3度目の全集。透明度や簡潔さが目立つ個性的な演奏なので、豊麗なデイビスとは対照的なシベリウス。枯れた味わいの4番以後はどれも名演ですが、2番としては盛りあがりに欠ける感じで、音のバランス、響きなどユニークな演奏です。
ヴェデルニコフの芸術
ロシアの大ピアニスト・ヴェデルニコフ。リヒテル・ギレリスと並ぶ存在でありながら日本で名前が知られるようになったのは死後デンオンからCDがメロディア録音が発売されてからで、そのスケールの大きさと圧倒的な技巧でロシアピアニズムの懐の深さに驚かされました。バッハからストラヴィンスキーまでというレパートリーの広さもさることながら、どれをとってもすばらしい演奏なのはさすがです。
特に私にとって忘れられないベスト盤は(迷いつつ)シューベルト「さすらい人幻想曲」、シューマン「交響的練習曲」、ブラームス「パガニーニ変奏曲」という技巧的な3曲が入った1枚を選びます。独特の重々しいタッチに滑らかな指使い、録音のせいもありますが和音が軽い感じなのがこの人の特徴で(リヒテルとの相違点と勝手に考えてます)、特に「さすらい人」はケンプの若々しく健康的な演奏とは違って、スピード感と構成感のあるロシアピアニズムさながらの演奏です。 「パガニーニ変奏曲」も屈指の演奏で、鮮やかな技巧で弾ききってるベストに近い名演です。
マーラーの交響曲全集
ベルティーニの話のついでに、マーラーの交響曲全集の聴き比べをメモしておきます。
(1)バーンスタイン・ニューヨークフィル(旧。CBS)…速めのテンポで躍動感があるんですが、個性的なテンポでオケのアラも目立ち、素っ気ないところも多く好きになれない感じ。
(2)ショルティ・シカゴフィル(デッカ)…学生時代に聞きこんだので思い入れが強く、3番・8番あたりは秀演。響きが洗練されすぎもっとコクが欲しい気もします。
(3)クーベリック・バイエルン(DG)…これも学生時代に聴きまくりました。ドイツ的な古風な響きは私好みですが、オケのアラも目立ち、全体におとなしい気もします。8番の盛りあがりは名演です。
(4)テンシュテット・ロンドンフィル(EMI)…独自の表現主義的なマーラーで好悪分かれそうで、この人はライブのほうが盛り上がってて好きで、スタジオ録音にしては音質も今一つでオケのアラも若干あり、今ひとつ好きになれない感じ。
(5)インバル・フランクフルト放送(デンオン)…オケのレヴェルが高く(特にホルン)、響きがマーラーにぴったりの気がします。解釈は精密な感じで構成感がしっかりしていてこれが好悪に分かれるかもしれません。とりわけ構成力のきわだつ7番が名演。
(6)バーンスタイン・アムステルダムコンセンルトヘボウ/ニューヨークフィル/ウィーンフィル(新。DG)…全集で一つ選ぶとすればこのセット。特に1・5・6・8・9番・大地は耽美的でスケールも大きく大好きな演奏です。
(7)マゼール・ウィーンフィル(CBS)…ウィーンフィルの唯一の全集でオケはうまいですが、ゆったりとしたテンポ感が個性的で好悪分かれそう。曲によっては耽美的な時とパワフルな時が中途半端な感じもありますが、3・8番はたっぷりと旋律を歌わせ歌手もうまく名演です。
(8)シノーポリ・フィルハーモニア(DG)…この録音もマーラーにふさわしい響きで説得力のある演奏が多く、耽美的なバーンスタインに対して精密で健全なマーラーの印象。5・6・10番あたりが名演。
(9)アバド・ベルリンフィル(DG)…アバドにしては個性が弱くバーンスタインとシノーポリの中間的な印象で、ベルリンフィルの精緻で迫力のあるサウンドが聞き物。2・6番が好きです。
(10)ベルティーニ・ケルン放送(EMI)…精密な職人技のような印象。耽美的な部分やオケの響きは秀逸ですが、曲によっては物足らない部分もあります。3・7・9番あたりが名演。
ベルティーニのマーラー全集
ベルティーニ指揮ケルン放送交響楽団の「マーラー交響曲全集」(EMI)をやっと聴き終えました。
1990年代のマーラー録音のなかでも特筆すべき存在だと思います。非常に柔らかなオケの響きにゆったりめでインパクトのある構成感が個性的で、多少神経質なマーラーかもしれませんが、何より曲に共感していることが感じられるのがいいです。
ライブ録音の数曲もそうアラはなく、どの曲もバーンスタインなど歴代の名盤に比しても遜色はないと思います。廉価の輸入盤であるのも嬉しい限り。詳しくはhttp://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1455817
ショスタコヴィチ交響曲
ここ1ヶ月でぽつぽつショスタコばかり聴いてる自分に気が付きました。交響曲、協奏曲、室内楽、ピアノ曲、オペラとどのジャンルもつまみ食い的に聴いて、曲のすばらしさに感動しています。
交響曲をいくつか聴き比べたので感想をメモしておきます。

(1)コンドラシン/モスクワPO(メロディア)
これがイチオシですが、やはり1960年代のステレオ初期でありながら録音が悪く万人向けとは言えないかもしれません。ただ曲に精通したようなスケールの大きさ、スピード感、オケのテクニックとも万全です。
(2)ムラヴィンスキー/レニングラードPO(メロディア)
全集がないのが悔やまれますが、残された録音は全てベストに近い演奏。スピード感やオケのテクニックはコンドラシンと同じかさらに上で、コンドラシンが大げさなのに大してクールに燃焼していると言えるでしょうか。ただライブ盤もあったり録音はあまり良くないです。
(3)ロジェストヴェンスキー/ソヴィエト国立文化省SO(メロディア。写真左)
1980年代なので録音は申し分なく、西欧オケにない打楽器や金管の迫力は十分ですが、オケのテクニックがやや落ちるのとスピード感がそれほどではないのが残念。構成感はまずまず、表現は多少疑問のところもあります。
(4)ハイティンク/ロンドンPO(デッカ。写真中)
録音は申し分なくオケのテクニックも十分です。ただ西欧オケと旧ソ連オケの差が出て、盛り上がるところがおとなしかったり、特に打楽器や金管の迫力に欠けるようでショスの醍醐味がちょっと味わえない感じです。
(5)バルシャイ/ワルシャワPO
廉価が魅力で話題でしたが、これはおすすめしません(実はダビングもせず中古店に買い取ってもらいました)。オケのテクニックが落ちるのと構成感にどうも馴染めなかったです。
(6)ロストロポーヴィチ/ナショナルSO(テルデック。写真右)
デジタル録音でオケのテクニックも十分です。ただハイティンク盤と同じく西欧オケのため打楽器・金管の迫力が今ひとつという点はあります。指揮がかなり個性的で、テンポの急変が気になるかもしれませんが、15番4楽章で幻想的だったりすばらしい面が多いように感じました。

それにしても全集が5000円台で買えるというのは、いい時代になりました(LP時代には考えられない!)。

新ウィーン楽派

2006年2月6日
新ウィーン楽派
カラヤンの新ウィーン楽派管弦楽曲集(DG。3枚組)。シェーンベルグ「ペレアスとメリザンド」「浄夜」、ベルグ「抒情組曲」あたり洗練された感があって、曲も非常に聴き応えがありました。
またラサール弦楽四重奏団「新ウィーン楽派弦楽四重奏曲全集」(DG。4枚組)も学生時代以来ひさびさに聴く曲で、鋭敏な音楽を柔らかく抒情たっぷりに演奏しているのに好感もてました。「抒情組曲」のオケ版との比較も面白いです。
イダ・ヘンデルのチャイコン
去年発売された往年の名演奏家を回顧するEMIのアーカイブス・シリーズは買うたびに新たな発見と感動があって、ナイやヘス、Aフィッシャーのベートーヴェンのソナタなどもすばらしかったのですが、今のところ一番のお気に入りはイダ・ヘンデル(1924年〜)です。1950年代のEMI録音にしては良好で、メインはチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」(グーセンス指揮ロイヤルフィル)。ふくよかな響きのある美音と安定した技巧で名演であることは言うまでもなく、特筆すべきはゆったりとした歌い回しで一音一音を丁寧に弾いていて、その美音に包まれながら、飽きることなくずーっと聴いていたい感覚をおぼえました。今の私の感性にぴったりきました。
カップリングの小品では、パガニーニ「カプリース第24番」(アウアー編曲。このピアノ伴奏付き編曲はハイフェッツ・メニューインとたてつづけに3種聴きました)、ファリャ「スペイン舞曲第1番はかなき人生より」、パガニーニ「エジプトのモーセ幻想曲」、ドヴォルザーク「スラヴ舞曲第2番」など、どれもすばらしい演奏です。
あとデンオンレーヴェルの録音集成3枚組にヴィエニアフスキーの2番やラロのスペイン交響曲、「ツィガーヌ」「ツィゴイネルワイゼン」などの小品集が収められ、こちらも非常にすばらしい演奏です。

フルニエの芸術

2006年2月4日
フルニエの芸術
かつて販売された日本製の「フルニエの芸術」は廃盤でヤフオクでも3万円くらいの値がついたことがありましたが、輸入盤BOXで登場して安くなっています。
名演の誉れ高いドヴォルザーク(有名なセル指揮)、エルガーなどの協奏曲のほか、ブラームス・ショパン・フランクのソナタやシューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」やシューマンの小品など名演がぎっしり入ってます。
RCAやアルヒーフで今まで聴いた協奏曲やブラームスの室内楽、バッハの無伴奏などの録音では、渋くて紳士的でロマンティックで「貴公子」のイメージが強かったんですが、このBOXの、特にブラームス「チェロソナタ」は奔放な演奏で驚きました。バックハウス伴奏のモノラル盤はドイツ的な渋い演奏だったのに対して、フィルクシュニー伴奏のこのステレオ盤はフルニエが指導権にぎってブイブイ言わせる感じで、この曲の演奏では特異な存在かもしれません。テンポも小気味よくて飽きがこない感じです。他にショパンの「チェロソナタ」では2楽章の第2主題(ピアノのアルペジオにのってチェロが優美な主題を歌わせるとこ)はロストロあたりはルバートしてたっぷり歌ってるのに対してフルニエは抑制の効いた演出でこれは渋い演奏。他にも小品の演奏は彼らしい堅実な演奏でどれも名演だと思いました。
パーレイの演奏でドイツの銘器ブリュートナーで録音したCDを聴きました。ブリュートナーは知る人ぞ知るピアノで、四本弦のうち1本はハンマーが叩かなくて共鳴させる仕組みで、響きはベーゼンドルファーに似た深みがあって柔らかな音で、確かに叩音が複雑な気もして、ちょうど2台のピアノで二人同時に同じ曲をぴったり弾いたような感じもします。
モーツァルトの幻想曲ニ短調、ベートーヴェン「ワルトシュタイン・ソナタ」、ブラームス「パガニーニ変奏曲」、バーテル「ダヴィドとゴリアテ」が収録されています。特にベートーヴェンやブラームスの難曲は、曖昧さ皆無でたっぷりのテンポで非常にオリジナリティに富み、この楽器の特性を生かしてフォルテを強打するところはビーンと響いて快感です。またバーテルは現代ドイツの作曲家で、スクリャービン的な部分やジャズっぽい要素があって聴きやすい感じで非常に鋭敏な感覚の曲で、この楽器を生かして強打で狂乱的になるところの迫力は物凄く、また曲自体も気に入りました。
ベートーヴェンのピアノソナタ全集
昨日の日記が平均律だったので、今日はこれまた私の好きなベートーヴェン「ピアノソナタ全集」の聴き比べです。

(1)シュナーベル(EMI)…ドイツ的なオーソドックスな演奏で、長調の優美さと劇的なところの迫力はなかなかです。テンポもけっこうゆらします。
(2)バックハウス(デッカ。旧)…基本的には新盤と同じですが、多少技巧がかっちりしてすっきりした演奏が多く、テンポがいくぶん早め。
(3)ナット(EMI)…けっこう気にいってます。シュナーベルよりオーソドックスかなあという感じ。私情を排したという表現がぴったりでバックハウスのテンポ・表現と似た面も多いです。
(4)グルダ(デッカ。旧)…新盤より恰幅があって品もあり、非常にすばらしい演奏。タッチもしなやかでバックハウスと並んで安定した名演です。
(5)バックハウス(デッカ。新)…技巧が安定し、一つの基準になると思いますが、速すぎたり素っ気ないところ、テンポを大きく揺らすところも多いです。もちろん彼の個性がベートーヴェンにぴったりなので(最初に買った全集で愛着もあります)、誰にでも勧められる名盤なのに違いありません。
(6)ケンプ(DG。旧)…曲によっては非常に熱を帯びるところとテンポがいくぶん速めのところが新録音との大きな違いです。アラが多少目立ちます。
(7)アラウ(フィリップス。旧)…やや遅めでじっくり弾く感じでお手本のような演奏。ただ熱情などの大作ではどんどん燃焼度が高まって速いテンポで豪壮なところが感動的です。一番テンポを揺らしてるような気もしますが、ドイツ的で正統派の印象は変わりません。
(8)ケンプ(DG。新)…バックハウスが素っ気ないところをたっぷり歌ってますのでドイツ風の演奏では好一対。高音の輝きも抜群で名演ぞろいです。
(9)グルダ(アマデオ。新)…ウィーン風の洗練された感じ。完璧な技巧と速めのテンポと言うとバックハウスに似てますが、より歌い回したり、より素っ気ないところもあったり、一方で豪壮な面もあり、一言でいうのが難しい…。旧盤よりは固い感じ。
(10)ハイドシェック(EMI)…フランス人のベートーヴェンということでルバートやスピード感、瞑想的なルバートなど自在な感じで個性的で聴き応えがあります。
(11)アシュケナージ(デッカ)…洗練された技巧で超スピードなところもあったり、優美に歌い回したり、完成度は高いですが、ドイツ風ではないですが万人向けの印象。
(12)ブレンデル(フィリップス。旧)…学究肌の人の演奏という印象ですが冷たすぎることもなく、ペダリングやルバートなどお手本のような味わい。時に素っ気ないところもあり、時に瞑想にふけるところもあり、新しいベートーヴェン像という感じ。
(13)バレンボイム(DG。新)…アラウより遅い感じもありますが、スケール感が大きく、DGの録音のよさもあって聴き応えがあります。
(14)ニコラーエワ(メロディア)…非常に主観的な演奏で、タッチもゴツゴツしていてゼルキン的な魅力に富みますが、ライブゆえのアラは目立ちます。
(15)園田高弘(デンオン。1回目)…日本人初のソナタ全集。テンポが速くさわやかに弾くところはグルダに似た感じもありますが、後期の重厚さなどグルダよりドイツ的な印象です。
(16)アニー・フィッシャー(フンガロトン)…ベーゼンドルファーによる速いテンポの演奏なのでバックハウスに似てますが、アダージョ楽章での瞑想的なところやアレグロ楽章で爆発するところは聴いていて爽快!本人は公表をためらったそうですが(32番2楽章にはアラもある)、それにしても含蓄のあるすばらしい演奏です。
(17)アラウ(フィリップス。新)…旧録よりスケールが大きくなり、ゆったりとしたテンポで味わい深く、すばらしい出来。
(18)ブレンデル(フィリップス。新)…旧録より情感たっぷりでスケールも大きくデジタル録音なので万人向けの印象。ハンマークラヴィーアなどライブ演奏も説得力があり、1曲1曲が聴き応えがあります。
ニコラーエワのJSバッハ「平均律クラヴィーア曲集」全曲
JSバッハの「平均律クラヴィーア曲集」全曲はベートーヴェンのソナタ全曲と同じくらい味わい深いものがあり、旧約聖書と新約聖書の比喩は言い得て妙です。
平均律の聴き比べはこれからぼちぼちですが、今夜はニコラーエワの平均律(1984,85年。デジタル録音。今市市民ホール。メロディア)を聴きました。現代ピアノの特性を生かし、強弱や響きをたっぷりきかせた味わい深いバッハで、リヒテルのような激しさや瞑想的な部分がないかわりにバッハの真髄にせまるかのようで、また録音がいいのも特徴です。

今まで聴いた全曲を振り返ると、
ヴァルヒャ(EMI・アルヒーフ新旧2種。Cemb)…両方ともイチオシでバッハ自身が彼の身体に乗り移って弾いているような精神性に富んだものです。
ランドフスカ(RCA。Cemb)…古い演奏でチェンバロの響きに好悪分かれそうですが、彼女の敬虔なバッハ像が際だっていて聴き応えがあります。
フィッシャー(EMI。pf)…ベートーヴェンソナタ全集で言うとシュナーベルと同じ位置にある歴史的名演。モノ録音でアラもあるので万人向けではありませんが、この曲集を語るうえで欠かせない存在です。
グールド(CBS。pf)…奇才グールドの才能を示したもので、ピアノをチェンバロ的に弾いたり、響きを残したり、いろいろな発見のある演奏です。
リヒテル(メロディア。pf)…現代ピアノの特性を生かした演奏で、彼らしいオリジナリティに富んで、緩急の差が激しく、巨人らしい解釈が面白いです。
グルダ(フィリップス。pf)…ピアノによる演奏では最も万人向けでベートーヴェンのソナタ全集で言うとバックハウスの位置にあるものです。正攻法で品があって音もきれいでバッハを強く感じる名演です。
シフ(デッカ。pf)…現代ピアノならではの響きを生かし、彼のオリジナルの装飾音など示唆に富む演奏で、グールドとは対極にあるような工夫としなやかさを感じます。丁寧で録音も優秀です。
ヒューイット(ハイペリオン。pf)…非常に丁寧かつ深みのある演奏でバッハを強く感じる名演です。
バーンスタインのマーラーDVD全集
こんなに素晴らしいDVDが9枚組で16000円台というのは信じられないです。
バーンスタイン指揮VPO他、マーラー「交響曲全集」(1〜10番。大地。DG)。
1曲1曲にバーンスタイン入魂の感動が得られます。どの曲も映像がきれいで演奏も最上級。特にと言われれば交響曲8番「千人の交響曲」。その官能はただものではなく、CDで何回も聴いてるのに映像で鳥肌が立つ感動を味わいました(CDで1楽章ラストの大音響は音が割れ気味ですがDVDはOK)。退廃的な匂いのテンポルバート、笑うレニー、嘆くレニー、飛び跳ねるレニー、甘く切ないVPOの響き、どれもこの曲にぴったり。歌手陣も素晴らしい熱演。合唱人数が最初少ないと思ったんですが、響きのバランスはちょうどいいくらいでした。
詳しくはhttp://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1490900
リパッティのバルトーク・リスト
ディヌ・リパッティの珍しいライブ盤(EMIリファレンス。「リパッティの芸術」にも未収録)のCDを聴きました。

バッハ〜ブゾーニ編「ピアノ協奏曲1番ニ短調BWV1052」ベイヌム指揮コンセルトヘボウ(1947)
編曲物とは言え、これは期待を上回るすばらしい演奏!音質もまあクリアーなほう(やや雑音あり)でブゾーニ編曲のピアノパートはちょっと面白いし、暴走気味の3楽章はリパッティらしからぬ熱気にあふれています。

リスト「ピアノ協奏曲1番」アンセルメ指揮スイス・ロマンド管(1947)
まずもって音が最悪。エアチェックなのか始終雨がザーザー降っててがっかり。でもアンセルメのテンポが好ましい感じで、リパッティのよく廻る鮮やかなタッチはメリハリがあり聴き応えがあります。アゴーギグとかテンポは何となくフランソワ盤に似ています(コルトーの弟子同士?)

バルトーク「ピアノ協奏曲3番」ザッハー指揮(1948)南西ドイツ放送管(1948)
私の大好きな曲!しかもリパッティ!音質もいい!ところがこちらは伴奏オケが素人っぽく、弦も管も音程ミスなどアラが始終目立ちます(ティンパニの音大きすぎ!)。ですがリパッティのバルトークという興味津々の組み合わせは期待通りで若々しく、ピアノについてはほとんどアラがなく、テンポはややゆったり目で3楽章ラストの迫力はなかなかのものです。

ヌヴーとハッシド

2006年1月25日
ヌヴーとハッシド
二人とも夭逝した天才ヴァイオリニストです。
ヌヴーは30歳で飛行機事故、ハッシドは27歳で脳疾患でした。
その二人の小品の録音がカップリングされてるのがこのCDです(テスタメント盤)。
ハッシドはこの盤の8曲の小品が唯一の録音でこれが全て、ヌヴーは最初の録音で、いずれも安定した技巧と美音による完成度の高い演奏です。ヌヴーは他に協奏曲のすばらしい録音がいくつかあるのですが、ハッシドはこの小品の録音だけでは秘めたる感情の燃焼度まではわからないのが残念ですが、歌い方やボウイングの細部など惚れ惚れする演奏です。
詳しくはhttp://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=153683
イダ・ヘンデルのチャイコン
去年発売された往年の名演奏家を回顧するEMIのアーカイブス・シリーズは買うたびに新たな発見と感動があって、ナイやヘスのベートーヴェンのソナタなどもすばらしかったのですが、今のところ一番のお気に入りはイダ・ヘンデル(1924年〜)です。1950年代のEMI録音にしては良好で、メインはチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」(グーセンス指揮ロイヤルフィル)。ふくよかな響きのある美音と安定した技巧で名演であることは言うまでもなく、特筆すべきはゆったりとした歌い回しで一音一音を丁寧に弾いていて、その美音に包まれながら、飽きることなくずーっと聴いていたい感覚をおぼえました。今の私の感性にぴったりきました。
カップリングの小品では、パガニーニ「カプリース第24番」(アウアー編曲。このピアノ伴奏付き編曲はハイフェッツ・メニューインとたてつづけに3種聴きました)、ファリャ「スペイン舞曲第1番はかなき人生より」、パガニーニ「エジプトのモーセ幻想曲」、ドヴォルザーク「スラヴ舞曲第2番」など、どれもすばらしい演奏です。

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